犬の心疾患

犬糸状虫症(フィラリア症)

蚊の吸血によって感染する寄生虫の一種です。

感染経路と予防について

蚊の吸血によって感染する寄生虫の一種です。適切な予防を行うことによって感染を確実に防ぐことができます。血液検査により抗原陰性(現時点で成虫の感染は認められない)を確認した上で予防を開始します。

月に一回の内服をする錠剤、チュアブル錠による予防や、1年に1度注射することで通年で効果を発揮するものもあります。

これまでは主に蚊の活動が活発になる時期のみの予防が勧められてきましたが、温暖化の影響に伴い、2020年に改定されたAmerican Heartworm Society(https://www.heartwormsociety.org)の発刊するガイドラインでは通年での予防が推奨されるようになりました(上記サイトをご参照ください。




犬糸状虫症(フィラリア症)の病態

成虫寄生:フィラリア成虫が犬の体内に寄生することで、心臓病や血液循環障害などを引き起こし、最悪の場合は命を落としてしまうこともあります。少量寄生ではあまり症状はありませんが、大量寄生では肺動脈内~右心系に観察され、重度の肺高血圧症や虫体や血栓による塞栓症など易疲労性や呼吸困難など重度の症状を伴う場合もあります。赤血球が虫体とぶつかることで溶血が引き起こされ、尿が赤くなることもあります。

成虫はミクロフィラリアという幼虫を産み、それらが臓器に詰まることで臓器障害を引き起こすことがあります。また、ミクロフィラリアが体内にいる状態で予防薬を投与するとそれらが一気に死滅してアナフィラキシーショックを引き起こし、最悪の場合死に至ります。そのため、予防薬開始シーズンの初めには抗原検査を受けることが必須となります。
大静脈症候群:重度の右心不全徴候により腹水貯留と全身状態の急激な
悪化を呈します。




成虫寄生の治療法

成虫が寄生してしまった場合には、約5年の寿命があるため駆虫しなければその間に前述の症状を発症する可能性があります。American Heartworm Society(https://www.heartwormsociety.org)の発刊するガイドラインに沿って成虫駆虫を行うことが望ましいのですが、現在メラルソミンは国内での調達は難しく、また注射による疼痛反応などの観点から当院では使用を控えております。

代わりにモキシデクチン(フィラリア予防薬)とドキシサイクリン(抗生物質)を組み合わせた成虫駆虫法(slow-kill法)を実施しており、こちらも安全かつ有効な治療法とされております。

フィラリアは虫体内にWolbachia(ボルバキア菌)を保有しており、フィラリアの発育や生存に必要な代謝を補完し共存しています。そのため、ドキシサイクリンの投与によってボルバキア菌を減らすことでフィラリアを弱らせたり、宿主の有害な免疫反応を抑えながら駆虫していきます。 

成虫駆虫には上記の方法で約半年~1年程度必要となります。

大静脈症候群のような、大量寄生の例では頚静脈から鉗子を右心系や肺動脈に進めて摘出を行う手術が必要となりますが、すでに非常に進行した状態のため、致死的な経過をたどる場合も多くあります。



記事執筆者

荻窪桃井どうぶつ病院/杉並動物循環器クリニック 院長
(獣医循環器認定医)

木﨑 皓太

2012年 北海道大学獣医学部 卒業
2018年 獣医循環器認定医取得
一般社団法人LIVES 理事、循環器科
東京都、神奈川県、群馬県、埼玉県、愛知県、大阪府の多数の病院で循環器診療を担当