その他の疾患

猫の動脈血栓塞栓症

血栓が血流に乗って移動し、臓器に詰まって障害を引き起こします。

どんな病気?


心臓内や血管内で形成された血栓が血流に乗って移動していき、臓器に詰まって障害を引き起こします。

Virchow(ウィルヒョウ)の三徴(血液凝固能の亢進、血流の停滞、血管内皮の損傷や機能不全)のどれか一つでもある場合には、血栓が発生しやすくなるとされており、さまざまな状況でこのような徴候が引き起こされます。

猫では心筋症が最も多い原因とされています。

心疾患以外の基礎疾患としては、甲状腺機能亢進症、腫瘍、高血圧などが確認されています。

とくにラグドール、バーマン、アビシニアンは発症率が高いとされています。


犬での動脈血栓塞栓症の発生は猫と比較すると少ないです。

犬で発生した場合、心臓病が原因であることは少なく、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、蛋白漏出性腎症、蛋白漏出性腸症、免疫介在性溶血性貧血、膵炎、敗血症、腫瘍、犬糸状虫症など様々な基礎疾患によって発症するとされています。

また犬では静脈系で作られた血栓が肺に詰まってしまう、肺血栓塞栓症の発生も多く呼吸困難を生じることがあります。これはグループ4の肺高血圧症の原因ともなります。


動脈血栓塞栓症の症状

詰まった臓器によって症状は様々ですが、最も気がつきやすい症状は後肢麻痺です。血栓が大動脈の分岐部で塞栓を起こし、両方の後ろ足への血流が途絶えてしまうというものです。腹部大動脈の三叉分岐部がちょうど乗馬に使う鞍(サドル)に見えることから「鞍状血栓」などとも呼ばれます。

後肢以外にも、前肢(とくに右)やその他の臓器に詰まることもあり、脳では脳梗塞による痙攣発作などの神経症状、腎臓では急性腎不全、腸管では嘔吐や腹痛などを引き起こす可能性があります。

動脈血栓塞栓症の兆候として、脈拍欠損(pulselessness)、疼痛(pain)、蒼白(pallor)、不全麻痺(paralysis)、体温変化(poikilothermy)が代表的で「5つのP」と呼ばれることもあります。

非常に強い痛みが生じるため激しい興奮と鳴き声と共にのたうち回ったり、開口呼吸(パンティング)が見られることがあります。開口呼吸は肺水腫や胸水の合併の可能性もあり、呼吸不全はさらに死亡リスクを上昇させます。こういった場合、心筋症も非常に重度であることが多く、仮に動脈血栓塞栓症から回復してもその後の生存期間は短いとされています。


血栓の予防

特に左心房が拡大してくるStage B2からはリスクが高くなるためクロピドグレルやイグザレルトといった薬を用いて血栓の予防を始めます。

左心房の中に煙が渦を巻くようなモヤモヤエコー像というのが観察された場合は血栓形成のリスクが非常に高い状態といえます。



動脈血栓塞栓症の治療

実際に動脈血栓塞栓症になった場合の治療としては、まずは鎮痛剤を使用して痛みのケアを行います。

肺水腫や胸水など、呼吸状態が悪い場合には酸素投与や利尿剤を用いて心不全の治療を行います。

詰まった血栓の治療については、抗血栓薬の投与によりさらなる血栓が作られないようにすることや、血栓溶解剤の使用などが選択肢となります。外科手術やカテーテルを用いて血栓を取り除く方法もありますが、いずれも難易度の高い処置となります。

しかしながら、病院に到着するまでに時間がかかってしまった場合、血栓溶解剤を使用したり血栓を取り除く処置をすると、虚血再灌流障害により死亡リスクを高めることになると言われています。発症から3~4時間以内であれば血栓溶解治療や外科を考慮できる場合がありますが、状態によって慎重な判断が必要です。

虚血再灌流障害とは血流が途絶えていた部位に急に血流が再開することによって、虚血部位で産生された体にとって有害な物質が一気に全身に巡り、症状が悪化して死亡リスクが著しく上昇する病態です。


動脈血栓塞栓症の予後

動脈血栓塞栓症は一般的に死亡率や再発率が高く、予後の良い病気とは言えません。生存・退院率は3割程度とも言われます。(※海外からの報告のため安楽死の症例も多く含まれます。しっかりと治療を行えばもう少し助けてあげられる印象です。)

直腸温が37.2℃以下に低下している、両後肢麻痺、心不全の併発(肺水腫や胸水貯留など)がある場合は、とくに予後が悪いと言われています。積極的に治療することで回復する可能性ももちろんありますので、すぐに諦めずに治療してあげましょう。

回復した後は、前述の通り、再発率が高いため血栓予防は積極的に行っていく必要があります。

命が助かった場合も、足が壊死してしまうこともあるため、断脚が必要となることもあります。

一度発症するとかなり辛い症状が出るだけでなく、とても予後の悪い病気のため、前述の通り、無徴候のStage B1の時点から定期的な検査を行い、適切な時期(Stage B2)から血栓の予防を行っていきましょう。

動脈血栓塞栓症による皮膚の壊死


動脈血栓塞栓症により変色した肉球